ダンタイソンが明かしたショパンコンクール審査のポイント

第18回のショパンコンクールの審査員の一人、ダンタイソンがインタビューで述べたことが、ショパンコンクールの審査の伝統の重要な側面を表している様です。まずその動画をご覧いただきたいと思います。

このダンタイソンの言葉を額面通り受け取るのではなく、そこから以下の事実だけを見抜く必要があります。

  • ダンタイソンは第10回のショパンコンクール第一位で優れた感性の持ち主ですが、このインタビューではその感性は封印し、自分の生徒である第一位のBruce Liuを出身国のカナダの公共放送のインタビューにおいて賞賛するために準備した、賢いメッセージだということ。
  • 演奏後の聴衆の反応が審査に大きく影響しているということ。
  • ファイナルでは出場者だけでなくオーケストラと息が合っているか、更にここで気が付くべきことはオーケストラ自体の調子がどうかということが影響するということ。
  • Bruce Liuが秀でたというイマジネーションとかファンタジーは曖昧な次元のことで、他の人が第一位になっても言えることであること。

聴衆が優勝者を決めて来た

以下の記事の中に開Bとか開Cと言った音楽演奏のランクが出て来ますが、それについてはこちらに分かり易い言葉で解説しておきました。

ショパンコンクールは最近行われた第18回を除き、第一位は必ず開Bの演奏者でした。その原因を考察してみます。

第一位を決める審査員の多くは開Cです。予備予選通過者の中に閉の演奏者がほとんどいないことから、開Cの審査員は開か閉かは確実に見分けられると言えます。しかしながら自分が演奏したり演奏を聴く時に、音楽演奏に対する自分のロジックが優先して自分の内側に意識が向けられないために、開Cと開B(以上)の区別ははっきり把握出来ない様です。

一方音楽の専門家ではない聴衆の多くも開Cですが、彼等には音楽演奏に対するロジックの妨げはありませんので、体に伝わって来る開Bの演奏を素直に受け留め、それに魅力を感じます。開Cの審査員達は音楽にはロジカルに説明できない部分があることは暗に承知しており、それは聴衆の反応を見て判断するのが一番容易でかつかなり正確だとしている様です。

それが今迄開Bの出場者が確実に第一位になっていた理由と思われます。ポーランドはショパンを生み出した国ですから、良い音楽演奏を聴き分ける体質を持っている様に思います。

第18回でBruce Liuはファイナル最終日の最後の演奏でなければ第一位にはなれなかった

演奏者の音楽が聴衆によく届くかどうかは前胸上部にある気道の部分が開いているかどうかに掛かっています。具体的には”あー”という声を出す時の声帯の部分が演奏の時にしっかり開いていると、聴衆にしっかり音楽が届き、付随的に肩に余計な力も入らず、下半身に重心のある演奏態勢になります。声楽では無くても声帯を使った方が良いということです。

前回第17回のファイナル出場者10人の演奏を見ると、出場者の点数の順位は見事に気道の開いている順になっております。ところが今回第18回のファイナル出場者12人の演奏を見ると、第1位のリウの気道の開き具合はファイナル出場者12人中11番目です。Bruce Liuは硬質の明快な音で演奏中は耳に鮮明に響きますが、演奏後は聴衆の体にはほとんど残りません。このままですと従来のショパンコンクール優勝者に肩を並べることは出来ません。

オーケストラがBruce Liuを第一位にした

ダンタイソンは演奏者が良ければオーケストラが生き生きとして来ると言っていますが、この場合は別の理由があったことに気付くべきです。オーケストラは三日間にわたって一日4回ずつ、団員にとって協奏曲の中で最も伴奏していて面白みが無いとされるショパンを伴奏して来ました。

Bruce Liuの前に演奏したHyuk Leekの伴奏の時は団員は体力も気力も共にどん底状態で、音楽的には正に死んだ状態で伴奏していました。それがBruce Liuの番になると団員たちはこれで最後だということで気力を振り絞り、最大限の音楽を生み出す伴奏をする様になったのです。特に最後の第三楽章でそれが顕著になりました。前者と後者の違いは感覚の働いている人であればそれぞれの静止画像ではっきり確認できます。動画で確認する場合はHyuk Leekの演奏動画Bruce Liuの演奏動画とでオーケストラの状態を比較して下さい。

Hyuk Leekの時のオーケストラが死んだ演奏との対比で、Bruce Liuの演奏では段違いに生き生きとし、聴衆にファイナルで最高の演奏と錯覚を起こさせたのです。しかもオーケストラに向けられた拍手と声援がその後ずっと続いたために、ケヴィン・ケナーの様なしっかりした感性を持った審査員を除き、Bruce Liuは多くの審査員が投票した様です。

採点結果がまだ発表されておりませんが、もし発表されない場合は審査会議で採点通りではない順位になったからかも知れません。

コンクールでは実力のある者が勝つとは限らない

コンクールは実力プラスアルファが必要ということが言えます。そのプラスアルファとは何でしょう?

よくプロ野球などのスポーツ競技において”流れがこちらに来ている”とか”流れが向こうに行ってしまった”という言葉を耳にします。流れがこちらに来ている時は実力以上の結果が得られ、反対に流れが向こうに行ってしまうと実力通りの結果が得られません。

コンクールに挑戦しようとする場合は、それを受けることが流れに乗ったことかどうか察知する能力も必要となって来る様です。