最近聴きに行ったコンサートで大きな収穫がありましたので、このページではそれについて述べさせていただきます。去る4月27日、NHKホールで満員の観衆の中で行なわれた、ステファン・ハウザーのコンサートです。

なお、このページの一番最後に、ハウザーの最新CDとDVD、CLASSICとCLASSIC  Ⅱを視聴出来ます。

幅広いのジャンルの楽曲を演奏

ハウザーは現在37歳、クロアチア出身のチェリストです。音楽コンクールで21回の優勝経験を持つと言われていることからも、ルーツの音楽ジャンルはクラシックですが、ロックやポップスを含め、魅力的な楽曲であればどのジャンルでも取り入れるという姿勢を貫いています。

2CELLOS

彼は、十代の頃音楽アカデミーで知り合った、同年代のスロヴェニア生まれでクロアチア育ち、ルカ・スーリッチとのデュオによる2CELLOSを結成し、マイケル・ジャクソンのSmooth Criminalを演奏した動画をYouTubeで公開したことによって、世界的に知られる様になりました。その後10年以上、世界各地のアリーナで演奏活動をしていた2CELLOSは、「チェロの可能性を世界に提示する」という役割を果たしたとして解散し、現在はそれぞれ別に演奏活動をするようになりました。そしてハウザーは今年開始した世界ツアーの一環として来日しました。

NHKホールでの演奏

ステファン・ハウザーは、お堅いクラシック奏者達から「素人受けするために、素人受けする曲ばかり弾いている」と非難されそうな「素人受けする美しい、ロマンチックな曲」ばかりを臆することなく選んで、それらの曲を、他の追随を許さない、見事な表現力で演奏します。YouTubeで彼の演奏を視聴していた私も、素人の一人として、その様な演奏を楽しみにして、NHKホールに向かいました。

ところが彼のその様な演奏は始めの10パーセントくらいで、徐々にリズムが激しくなり、シンセサイザー、ギター、ベース、ドラム、パーカッション、サックス、トランペットを伴った本格的なロックコンサートとなりました。中盤から聴衆の多くは立ち上がってリズムに合わせて手と体を揺らして踊っておりました。

その様なコンサートは予測していなかったのですが、わたしにとって特に違和感はなく、60年前のエレキブームのことを思い出して懐かしい感じがしました。ただし音のボリュームが大きくて、コンサートが終わってから耳が回復するのにかなり時間がかかりました。

チェロが歌っている

私が彼に期待していた美しい魅力的な曲の演奏は、はじめの内だけだったのですが、その間に素晴らしい発見がありました。彼が使用する楽器はクラシック・チェロ、即ち楽器自体から音の出る、箱型のアコースティックではなく、始めからずっとエレキ・チェロ、即ちピックアップを供え、電気信号を出力し、アンプで増幅してスピーカーで音を出すタイプのものでした。

深い音楽的な表現には向いていそうなクラシックチェロではなく、単調な表現しか出来なさそうなエレキチェロで演奏しているにも関わらず、”チェロが歌っている”、即ちまるでチェロ自体に声帯があって、あたかもかチェロ自身が歌っているかの様に聞こえるのです。チェリストの中でもクラシックの美しい魅力的なメロディーの曲を得意とするミッシャ・マイスキーの演奏をはじめ、弦楽器で豊かな表現をする奏者の演奏はよく聞いて来ましたが、この様な印象を持ったのは初めてです。

当日の演奏を盗み撮りした人がいて、それをYouTubeにアップされておりましたので、その中から一曲お視聴してください。

コンサートが終わって帰宅後、ハウザーの最近出したクラシックのCDを調べていたところ、ソニーミュージックのサイトに以下の記事が書かれていました。

ハウザーが新作『クラシックⅡ』のために選んだレパートリーのうち2曲は、ハウザーの人生を変えるような重要な意味を持つものだ。その1つがドヴォルザークのオペラ『ルサルカ』からの名アリア「月に寄せる歌」。初めて聴いたのは、ロンドンでチェロを学んでいた頃チャールズ皇太子(現国王)のためにバッキンガム宮殿で行われた公演でソプラノのルネ・フレミングの伴奏オーケストラのメンバーに選ばれたときだった。音楽そのものがハウザーに大きな衝撃を与え、チェロのための編曲を自分で行ったのだという。当時を振り返って「自分の人生において極めて重要な瞬間だった」と語っており、チェロがどのように歌うことができるかということに気づかされた瞬間だったという。

つまり、ハウザーは随分前から、”チェロが歌う”ということを追求しており、そしてそれが実現したのだということです。

チェロが歌うのですから、当然歌詞はありません。彼の演奏を聴くと、声楽において歌詞は聴衆を感動させることに関して、あまり重要な役割を果たしていないのではないかという気がします。ですから訳の分からない外国語の歌であっても、感動するものはするし、感動しないものはしない、ということになると思います。

理想的な演奏態勢

それと関連してもう一つ発見したことがあります。クラシックを演奏する時に、音楽的に表現をしようと思って、「心をこめて」演奏しようとするために、上半身を不自然に動かして肩で演奏し、下半身が死んでいる演奏者をよく見かけます。それと対照的に、ハウザーは”チェロが歌う”ということを実現しようとしているがため必然的に、心ではなく「体をこめる」ことになり、重心は下がり、下半身を中心として全身で演奏しており、理想的な演奏態勢を形成しています。

音楽的な演奏は心に支配された「個」ではなく、我々一人一人がその一部である「全」と一体になり、その一部として機能することによって実現します。それを実現するための演奏態勢について、私はホームページでいくつか述べておりますが、ハウザーが実現した”楽器が歌う”という目標は、理想的な演奏態勢を実現するための、とても有効な方法になると思います。

ハウザーが求めているもの

ハウザーは2020年に「CLASSIC」、そして2024年に「CLASSIC Ⅱ」という、クラシックの美しい魅力的な曲目を集めたCDを出しています。(このページの最後にお聞きいただけます。)

それらのリリースに関し、ソニーミュージックのサイトにはつぎの様に述べられております。

『クラシックII』と『クラシック』について「自分のルーツであるクラシックのレパートリーに立ち返ることができるこのプロジェクトは小さい頃からの夢だった。素晴らしいオーケストラと、音響のいいスタジオで、状態のいい最高のチェロで演奏すること。このアルバムで演奏しているメロディは、自分が音楽と恋に落ちたときの最も古い記憶の一部なんだ。これは自分にとって自然な事で大きな喜びなんだ」と語る。

パンデミックの大流行で世界的な政治的混乱が始まる前の2020年2月『クラシック』をリリースしたとき、ハウザーは “これらの美しい音楽こそ世界が必要としているものだ “と語った。「クラシックⅡ」についても、彼の想いは変わらず、”世界は今、この音楽を必要としている。かつてないほどにと付け加えている。

今回のNHKホールでのコンサートがそうであった様に、最近の彼のコンサートはロック調の激しいものが中心になっている様ですが、この記述から、そして何よりも、これらの演奏を視聴することによって、彼の一番の願いは、美しい魅力的な曲を演奏して世の中に貢献すること、即ち彼は音楽の持つ本当の力を知っていることが分かります。

現代は戦国時代ではありませんので殺し合いは行なっておりませんが、本質的にはあまり変わっていません。すなわちお金とか、地位・名誉の次元での殺し合いを行っています。人々はそれらに中毒した心に支配されて我を失い、生きる喜びを忘れ、緊張の日々を過ごしています。本当に良い音楽演奏は、人々に内在する自然界の一部としての本当の自分を目覚めさせ、大きな安心を伴った感動と、前向きに生きる力を蘇らせます。ハウザーはそれを感じている様です。

世界は今、この音楽を必要としている。かつてないほどに ~

ハウザーの演奏

コロナ・パンデミックの期間に世界を癒すためにYouTubeにアップした動画

 

CLASSIC,CLASSIC Ⅱ(音源のみ)